山形の探偵 独り言 その9

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「探偵さんて、張り込みの時にあんぱんと牛乳を召し上がるのですか?」
長年、探偵という職業に就いていると、何度かいただいた質問である。
冗談かと思いきや中には真面目に聞いてくる方もいた。

コントに出てくるような光景である、ここまでくると笑いのネタでしか考えられない。
しかも何故か電柱の陰に隠れている、とっくにバレてる感じです。
個人的にはあんぱんは大好きです。
それだけにこだわりもあって面倒くさいことに、あんぱんであれば何でもOKとはいかないのある。
だから、現場にあんぱんを持ち込みたくても、それに適うあんぱんがなければ食べれないのです。

探偵仲間と調査中の食事の話をしたことがあった。
自分も含めて、調査中は食べ物は口にしない派が圧倒的に多かった。
食べたい気持ちにならない、食べても美味しくない、食べた後に脳に血液がいかなくなる即ち感覚が鈍るなど、理由は人それぞれだが食欲が湧かないが一番の理由かも知れない。
水分補給やガム、喉飴などは適度に口に入れるだろうが、食べ物は殆んど無いのが自分や周りの探偵さんの一致した意見です。
その調査に関わる方の未来というか人生が懸かっている、そんな大事な調査を任せていただいているから当たり前のことなんだろう。

かなり前のことであるが、探偵見習のA君が研修に来ていた。
A君が調査に参加する時は、コンビニでお弁当2つ、パン、お菓子、飲み物等を買ってから合流する。
大きなレジ袋に、まるでピクニックに行くかのような荷物である。
車の中での張り込みとなると、長時間見張る以外にやることがないからついつい買ってきた食料を食べてしまう。食べきってしまう、幸せそうな表情である、食べることが生きがいの様である。
A君はそのうちに眠くなって寝てしまうことが何度かあった。
先輩の調査スタッフからクレームが入る。
A君曰く「空腹になるとイライラしてくるんです、低血糖になると頭が働かないし・・・」
彼の頭の中では、「食うべきか食わざるべきか、それが問題だ。」
きっと悩んだと思う。
A君の出した答えは、「僕は、尾行も張り込みも出来ますし探偵に向いていると思いますが、食べることの習慣がこの仕事に合わないので辞めます。」であった。
「そうですか、君に向いている仕事は必ずあると思います。」そのように返事をするのがやっとであった。
なぜなら、A君がまともに尾行や張り込みをしたことを、調査スタッフ誰一人見たことがなかったからである。
風の噂で、A君はその後キッチンカーに乗って仕事をしていると聞いた。
天職ってあるんだなぁ、とスタッフみんなで納得した。