探偵の独り言 その4

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探偵という仕事に就いてから、いろんな町に行くことがあります。
行ったというのは、ただその場に移動して通り過ぎたり景色を見たりもあるかと思いますが、探偵の仕事においては長い間滞在することが多いのです。

滞在期間が2,3日はまだいい方で、時には10日とか1ヶ月の滞在も有り得ます。
その間、町の景色だけでは無く、そこに暮らす人々や生活を窺い知ることが出来ます。
住人視線でそこで暮らす感覚です。
毎日、決まった時間に郵便配達が来る、宅配業者が来る、日によってゴミ収集車が来る。
早朝に散歩する人や、決まった時刻に通勤や通学に出かける人、時には救急車が目の前に現れたりすることもあります。
調査先の近所の方の行動まで分かってしまうものです。
その土地に溶け込んでいくのも探偵という仕事のひとつであります。

長期の調査にまつわる話しをひとつします。
3ヶ月の間、ある家を監視する仕事があった。
その家に出入りする特定の人物を捉えなくてはならない、24時間体制で監視する調査です。
車での張り込みは長期は無理であるために、その建物が見える場所に偶然、借家があったのでその家を借りることにした。

静かな住宅街であるからこそ、よそから来た者に対しては敏感です。
近所へのご挨拶はきっちりしました。
この調査を進めていくうちに、ひとつ障害が出てきた。
向かいの家の住人の行動がなんかおかしいのです。

夫婦と小学校の子供2人の4人暮らしの家庭のようであるが、この家のご主人の人相や服装や立ち振る舞いが、ちょっと普通の方とは明らかに違う。
日中は仕事に出かけているようだが、午後の3時を過ぎるとこの家の主人が帰宅していることが多い。
時々、この家の主人と見た目が似たような男性がぞろぞろと集まってくる。
この家の前の道路は住宅街の中、迷惑駐車の車が停めてある。

この日は、宴会が始まった、同じような男性が5~6人とその家族も一緒である。
この家の中には、今、少なくとも30人以上はいることになっている。
ちょっとしたホームパーティーであるが、違和感がある。
家の間取りは平屋の2LDK位かなと思われる。
家の中はどうなっているのか、すし詰めのように思われる。
賑やかな様子は、近所迷惑の域に達しようとしている。
彼らは何の遠慮や気配りをすることなく自由に時間を過ごしている。
こんなことが1週間の中で1~2回はある。

ある日は、男性だけが集まって昼前から麻雀をしていた、暑い日であったので窓は全開である。
この方々は、一体どんな仕事して暮らしているのだろう、しかも、奥さんや家族もいる。
時々、調査のために借りているこの家を執拗に覗き込んで、ジロジロ見ていく強面の男性がいる、夏なのに長袖のシャツそしてシャツの隙間から彫り物らしき絵が見える。

調査を始めて20日程過ぎたある日、朝の6時ころであった、パトカーと警察車両と思われる車が3台が向かいの家の前に停まった。
警察官らは、一斉にその家に入って行った。
しばらくして、その家のご主人が警察車両に乗せられて行くようすが見えた。
ダンボールに詰められた荷物が、次々に家の外に運ばれて警察車両に載せられる。
1時間もしないうちに、警察の車に全て運ばれていった、警察車両は、立ち去っていった。
捕物は終わったようだ。

テレビの番組の「警察24時間密着・・・」取材のあの場面である。
目の前で見ることが出来た、決定的瞬間とはこのことである。

夕方のニュースで、この事件のことが報じられていた。
反社会的勢力の団体の幹部の方だったようである。
その家から、拳銃も押収されたらしい。
向かいの家はその打ち合わせの場所というか、アジトとして使っていたようだ。
あの時麻雀をしていたのは組員の打ち合わせだったのかも知れない。
もしかしたら、我々を警察の張り込みと疑って見ていたとも考えられる。
パトカーが来たその日の午後には、家財道具も全て運ばれて、その家は誰もいなくなった。